【9月❸】学び直しから、新しい生きがいを見つけた熟年者の物語

「もう一度、人の役に立ちたい」、小さな学びが人生を動かした

9月のブログテーマは「学びの秋」です。

第1週では、熟年期の学びは、人生をもう一度創造する原動力になることをお伝えしました。 第2週では、学びは「覚えること」だけではなく、アウトプットして仕事や暮らし、人との関わりの中で生かしてこそ、本当の力になることを考えました。

今回は、学び直しをきっかけに、新しい生きがいを見つけた一人の熟年者の物語をご紹介します。

退職後、自由になったはずなのに

電機メーカーに会社員として長年働いてきたAさんは、68歳で仕事を退職しました。     現役時代は、朝早く家を出て、仕事を終えて夜7時ごろ帰宅する毎日。休日にも仕事のことが頭から離れず、「退職したら、ゆっくり過ごしたい」と考えていました。

退職した当初は、時間に追われない生活を楽しんでいました。               好きなテレビを見たり、庭の手入れをしたり、時には近くの温泉へ出かけたり。長年頑張ってきた自分へのご褒美のような毎日でした。                         ところが、半年ほど過ぎた頃から、今の生活に退屈し少しずつ心に変化が表れ始めました。

「今日は何をして過ごそうか」「自分は、これから何を目標に生きていけばよいのだろう」  自由な時間は増えたのに、人と話す機会は減っていき、なんとなく社会から取り残されたように感じる日もありました。

家族からは「これまで頑張ったのだから好きなことをして、のんびり暮らせばいい」と言われます。しかし、Aさんが本当に求めていたのは、単に時間を楽に過ごすことではありませんでした。

心のどこかに、「まだ何かできるのではないか」「もう一度、誰かの役に立ちたい」という思いが残っていたのです。

「今さら学んでも」という気持ち

そんな時、学生時代の旧友から地域の学習会に誘われました。

テーマは、スマートフォンの使い方や地域活動、健康、生きがいづくりなど、まちづくりや暮らしに身近なものでした。

Aさんは最初、あまり乗り気ではありませんでした。「この年になって、今さら勉強しても仕方がない」「若い人のようには覚えられない」「分からないことを人に聞くのは恥ずかしい」  そう思ったからです。

それでも知人に勧められ、スマートフォンの使い方勉強会にまずは一度参加してみることにしました。会場へ行ってみると、同じような年代の人たちが、失敗を笑い合いながら楽しそうに学んでいました。

講師から言われた言葉が、Aさんの心に残りました。                 

 「全部機能を覚えなくても大丈夫です。今日一つだけ、暮らしの中で使ってみましょう」    Aさんは、その日に習ったスマートフォンの写真送信を使い、遠方に住む孫へ庭の花の写真を送りました。

すると、すぐに孫から返事が届きました。「おじいちゃんお花の写真ありがとう。きれいだね。また送ってね」学んだことが、その日のうちに大切な人とのつながりを生み出したのです。

学ぶことが、人とのつながりに変わる

Aさんは、その後も学習会へ参加するようになりました。                

 スマートフォンの操作だけでなく、地域の歴史、健康づくり、コミュニケーション、ボランティア活動についても学びました。

初めは話を聞いているだけでしたが、ある日、参加者の一人からから仕事について尋ねられました。Aさんは、現役時代に身につけたPCの修理経験を話しました。すると周囲の人から、 「その経験は、地域活動にも役立ちますね」「今度、私たちにも教えてもらえませんか」   と言われました。

Aさんにとっては、ありふれた当たり前だと思っていた経験でした。しかし、別の人にとっては、ぜひ教えてほしい貴重な知恵だったのです。                     

 Aさんは初めて、自分が長い人生の中で積み重ねてきたものの価値に気づきました。

熟年者の学び直しは、何もないところから新しい知識を詰め込むことではありません。    

 これまでの経験に新しい知識を結びつけ、自分の中に眠っていた力を、磨き上げ、もう一度社会の中で生かせる形に整えることでもあるのです。

「教わる人」から「支える人」へ

やがてAさんは、地域の集まりでスマートフォンの操作に困っている人を手伝うようになりました。「写真は、ここを押せば送れますよ」

「一緒にやってみましょう。私も最初は分かりませんでした」               

 自分がつまずいた経験があるからこそ、初心者の気持ちがよく分かります。         

 操作ができるようになった人から「ありがとう」と言われるたびに、Aさんの表情は明るくなりました。                                          さらに、地域行事の写真を撮影したり、参加者への連絡メールを手伝ったりするようになり、活動の仲間も増えていきました。                             以前は「今日は何をして過ごそう」と考えていたAさんが、今では、           

「次は何を学ぼうか」「学んだことを、どのように、誰に役立てようか」と考えるようになりました。生活に予定が生まれ、人と会う機会が増え、自分が必要とされているという実感も戻ってきました。

Aさんが見つけた新しい生きがいは、特別に大きな仕事ではありません。新しいテーマを学び、、できるようになり、それを誰かに分けてあげること。                

その小さな循環が、Aさんの日々を再び輝かせたのです。

人生経験は、学びによって新しい価値になる

熟年期には、若い頃にはなかった強みがあります。                     

仕事で培った知識、家庭を支えてきた経験、人間関係の中で学んだ知恵、失敗から得た教訓――これらは、長く生きてきたからこそ得られた大切な財産です。               

ただし、その財産も、自分の中にしまったままでは、なかなか価値に気づけません。

新しいことを学び、これまでの自分の経験と結び付け、人と語り合い、実際に使ってみることで、過去の経験は現在の暮らしや地域に役立つ知恵や力へと変わります。

学び直しとは、過去を否定して一からやり直すことではありません。            

 新たな学びがこれまで歩んできた人生に新しい意味を与え、これからの人生へつなぎ直すことによって新たな物語創造につながるのです。

生きがいは、行動の先で見つかる

「生きがいが見つかったら、何かに取り組んでみよう」そう考える人もいるかもしれません。 しかし実際には、最初から明確な生きがいを持っている人ばかりではありません。

少し興味のあることを学んでみる。誰かと話してみる。覚えたことを暮らしの中で使ってみる。困っている人に、自分のできることを差し出してみる。                  

こうした小さな行動を重ねるうちに、「もっと知りたい」「この人たちと一緒に活動したい」「自分の経験を役立てたい」という思いが育っていきます。

生きがいは、頭の中だけで探すものではありません。学び、人とつながり、一種に行動する中で、少しずつ見つかっていくものなのです。

あなたの経験を、これからの人生の物語創造の力に

あなたには、これまでの人生で身につけてきた豊かな知識や経験が詰まっています。     

自分では「大したことではない」と思っていることが、実は誰かにとっては大きな助けになるかもしれません。

まずは、次の三つを考えてみませんか。

  • これまでの人生で、時間をかけて身につけたことは何でしょうか。
  • これから、もう少し学んでみたいことは何でしょうか。
  • あなたの経験や学びを、誰のために役立てたいでしょうか。

この三つが結びついたところに、これからの人生の役割や、新しい生きがいの芽が隠れています。人生100年時代、学びを始めるのに遅すぎるということはありません。

今日の学びの小さな一歩が、新しい仲間との出会いになり、誰かの役に立つ喜びになり、あなた自身の人生をもう一度輝かせる力になり、これからの人生物語の創造につながります。

人生、これからが本番。

学びを通して、これまでの経験を未来の力へ変えていきませんか。

次回の第4週は、「学びたいと思った今が始めどき――最初の一歩を踏み出す方法」をテーマに、無理なく行動を始めるための具体的な方法を紹介します。